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木曜ミステリー ツイン・ドリーム 第2話

 
 
 自宅から駅まではゆっくり歩いても十分とかからない距離だ。住宅地内の六メートル道路を少し歩けば、県道に出る。ここからJR我孫子駅まではまっすぐ五百メートルほどといったところだ。
 一度の引越しはあったものの、生まれてからずっとこの我孫子という町に住んでいる。ここが僕の現実の世界での故郷だ。故郷とは言っても、他人からこの町について訊かれたら十分に語れるほどの自信はなかった。
 今は勤務先となった銀行の入社面接のときに、我孫子はどんな町かと問われて考えが纏まらず焦った苦い経験がある。そのとき自分がこの生まれ育った町についていかに無知であったかを突きつけられた思いだった。
 が、そういうことがあったからといって、我孫子について詳しく調べてみようという気にはならなかった。

 以前住んでいた団地も現在の家も市の中心部からやや北の、ほぼ同じエリアに位置し、ここから通った小中学校にかけての一帯を除くと実のところあまり詳しくはない。
 生活圏を離れると、子供の頃に遠足で行った山や神社、友だちと遊んだ公園や川などについての断片的な記憶があるだけだった。我孫子の町についての記憶や知識はそんなふうに千切れ千切れのもので、それこそ市全体の地図を描けと言われてもその自信はなかった。
 自分が抱く我孫子という町のイメージは、よくあるベッドタウンの一つであり、正直なところ、この町に対して特別な愛着のようなものは抱いていなかった。電車の沿線にいくつもある、ありふれた町の一つにしかすぎない。
 名のある城下町だとか伝統産業が残るような町ならば、あるいは、違ったかもしれない。故郷という言葉がより実感を伴ったものに感じられたり、町に対する思い入れも自然と深まったりするのかもしれない。
 そういう意味では、この町に対して故郷などという言葉を使うことには抵抗が感じられた。生まれて以来慣れ親しんだはずの町ではあるが、いずれ、他の町に移り住むことになったとしても特別な感慨が湧き起こるようなことはないに違いない。
 我孫子から職場のある松戸までは常磐線で約十五分。関東圏の通勤としてはかなり恵まれているほうだろう。

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